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小川半蔵様御廻状



  天保十三年寅八月吉日
   小川半蔵様御廻状之写
          山中権十郎

 表紙は天保十三年であるが文末の記述から天保十一年十二月に関東御取締の小川半蔵(代官関保右衛門手代)が 村役人宛に触れたものですが村名は記述されていません。
 天保十年に合戦場宿一件と呼ばれる取締役人の不正が発覚する事件があり、水野忠邦により関東取締役出役十人全員と その関係者が処罰されました。 その後組織が一新され新たな政策として行われたものと思われます。

 ここに書かれている『孝行和讃』は増上寺役僧の宣契上人(文化十二年没)の作とされています。 末尾に
「此和讃を手習する子供におほへさせ教行のおもむきをしらせまほし御世の嘲を かへりミすハ俗語をもつて書つらねはへる」
 と書かれていて教諭政策に利用されたと考えられます。その後明治期まで寺子屋の教材として使用されました。
 

原文



解読文

  小川半蔵様ゟ御廻状之写
其組合寄場宿村江別紙孝行和讃壱冊宛差出し候条、
大小惣代寄場役人中ゟ組合村江廻状之節、右和讃相廻し
村々ニおいてハ手習師匠、其外子供江孝道弁へさせ度物江
為写取候様取計、尤一ト通り者相廻し候得共村々等閑ニ見流し
手帳等ニ写取候、尤又者世話不致もの万一有之候而不写取
も同様而巳ならす却而隙費候条、不届候間、右写之心得違
無之様大小惣代寄場役人より廻文相添相廻し何事も陰
徳と心得呉、厚世話可被致事
忠孝貞其外農業家業出情寄持もの等有之候ハゝ

読み方について


原文



解読文

我等廻り村先江早々書面を以可被申聞候、従上孝行御褒美之
儀申上候ものも両三人有之、尚此節可申上積取調中ノ有之候
間、其組合門ニも右体之者有之候得ハ村役人規模ニも相成、是
又厚差はまり寄持之者取調申立候様、右廻状席村之趣
可被申遣候、たとへ悪事は人真似いたし候而も、其所寄難見
逃返シ古障ニ相成候者一同承知之儀且孝行寄持等之儀者尚
又真似致し候而も右ニ友とし候善事ニ付、誉不遣候而者不拘
当筋ニ候条呉々極上ニ無之共不苦、聊たりとも孝行寄持之志し
背之もの者不洩様取調可申聞、且又農業不情無商売体ニ而
風俗不宜ものも有之候得者、内々是又申聞可被呉候村方難

読み方について


原文



解読文

儀ニ不相成様廻村席厚教諭致し改心帰農及ひ候様取計
可被遣候通旨候得共、右之趣等閑ニ不捨置、村役人中深切
実意を尽し、勧善懲悪御取締之難有御趣意行届候様
取計候得者たゝ人の為而巳ならす、銘々宿村役人相勤
居候冥理も可宜旨、格別心を用ひ可致取計事、右之趣
得其意組合村下令受印、早々順達当村より我等回村先江
可相返候、委細之儀廻村之砌可相演舌候、以上
            関東御取締
   子十二月        小川半蔵 印
              大小惣代
              寄場役人 中

読み方について


原文



解読文

  孝行和讃
夫人間と生れてハ      まつ孝行の道をしれ
おやに不孝の輩は      鳥獣にもおとれりと
古人ハ恥しめおかれたり   その孝行のおもむきハ
親のこゝろをよろこバせ   くらうをかけじと慎ミて
遊所徘徊ゆさんごと     大酒口論人あやめ
はくえき徒党強訴せす    すべて公儀の御法度を
背かぬよふニ相まもり    朝はやく起おそくねて
夫々家業怠らす       所の役人年うへの
人をあかめて軽しめな    兄をうやまへ弟を

読み方について


原文



解読文

恵ミて親類むつましく    あしき人には遠さかり
益ある友をしたふべし    婚礼するには其容儀
さとのひんふにかゝわらす  親に孝行ある人を
もとめて宿の妻とせよ    普請諸道具着る物も
身の分限をかへり見て    おこりを慎しミ倹約し
借りたる物を早かへし    成丈借財せぬよふに
心にかけて道ならぬ     利徳むさほる事なかれ
思ふてあつく孝行し     しうと女しうとを父母と
夫に貞節おこたらす     りんきしつとを慎ミて
おろそかにすなおさな子を  若先妻の子かあらば

読み方について


原文



解読文

長きわかれのかなしさハ   いか計りぞと思いやり
実のはゝに成かわり     深くあわれミそたつべし
親子兄弟嫁しうと      夫婦の間やわらきて
いかりのゝしる事なきは   最目出度ことぞかし
おさなき時ハ両しんを    しばしが内もはなれじと
したひし物を妻や子の    愛にひかれていつとなく
跡々成り行うはさに     我子を憐むこゝろもて
親の慈悲をハおしはかり   子を持つ人ハわけてなを
父母に孝行はけむべし    又奉公をするひとハ
主人を親ととふよふに    かげ日なたなくうやまひて

読み方について


原文



解読文

其身をおしまず住ふべし   若父母かおろかにて
訳無く己れを悪むとも    我か孝行の足らねばと
ミつからせめて露ほども   親をうらむる事なかれ
父母に孝行する人は     子孫のさかへも思ふべし
家のはん昌するせぬハ    子のよしあしによるぞかし
子をよくそたてあぐるには  常々親のなすわさが
よけれハ子もよく成る物ぞ  何程厳しく叱りても
親の身持かあしけれハ    おのつと子供も不持なり
とハいへたとはちゝはゝが  不道放埓成りとても
子ハ真似をせす身を脩め   折を見合せ異見して

読み方について


原文



解読文

正しき道に誘行れ      親に悪名とらせなよ
若父母か後の世を      ねがふ心をおこさずば
朝な夕なに神仏の      みふかを深くと願ひ
よくよくすらめいざないて  佛の道に入しめよ
両親先祖の進告は      そのほとほとにしたがひて
供佛施僧の善をつめ     人目をかさらす真実に
ほだいの為にえ向せよ    手向桶称念仏を
僧をたのみて足れりとし   自せぬわ疎略なり
威丈地震も勤むべし     親の存命せし時に
何程孝行ありとても     死ての後の遺言を

読み方について


原文



解読文

おろそかにする輩は     孝を尽すにあらすとハ
八幡宮のたくせんぞ     遠きをおいて懇(ねんごろ)に
親に孝行ある人は      神も佛も憐みて
常に守らせる不用者     其身を安く子孫迄
余慶を受る事そかし     神明佛陀聖堅の
教へを守り孝行を      一期怠る事なかれ
     孝行和讃終
   此和讃を手習する子供におほへさせ教行の
   おもむきをしらせまほし御世の嘲をかへり
   ミすハ俗語をもつて書つらねはへる
  天保十一庚子清和月

読み方について

清和月=陰暦四月朔日


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