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往来物

  

              光浮書之
    天明六午夏五月
        武州秩父白鳥庄滝上村
             野口文治郎
             野口与三郎

 これは商売往来の末尾に書かれた署名です。年号は原本の刊記で、学んだのは文久元年~四年ごろと思われます。 これには兄弟と思われる二人の署名がありますが、外はすべて同一人物「野口与三郎」の署名です。 学んだ順番や外にあるかどうか不明ですが、同一人物の教育課程の記録として参考になる史料です。
 往来物は刊行本でも写本でも古書市に行けば容易に手に入るものですが、 このように同一人のものをまとめて手に入れることは稀です。
 秩父市蒔田の「内田家住宅」(国重要文化財)が寺子屋を運営していたことが知れているので、 ここと係りがあったかもしれません。また「野口与三郎」さんは明治三十年に秩父郡樋口村の消防士であった 記録が残されています。

 どういう順に学んだかは定かではありませんが、一般には次のようですのでそれに合わせてみました。 「いろは」の平仮名から始めますがそのテキストはここにはありません。 その後漢字(名前、村名、国名)を学んで、次に名寄といわれる職業などに合わせた分野別の語彙集を学んで、 平易な文章を学んで、最後に実用文の文例になります。

  名頭





【漢字を学ぶ】
 名頭とは人の姓または名の最初の文字のことで、源・平・藤・橘 にはじまる姓氏の頭の字を列記したものです。 表紙には孟春とのみ書かれており、年号の記載はありません。

 名頭
源平藤橘孫彦長久金銀千万弥清繁栄文市内作忠孝権茂庄吉松梅馬又半篠助新郷甚
勘武徳仁定善宅増数猶幾利卯辰丑與寅仙乙六勝巳音安友直傳幸仲宗丹理要政浅伴
伊宇才團条瀬林冨熊勇岩和嘉儀惣秀左衛門右衛門兵衛之丞之進太郎次郎内蔵殿様

  村名





【漢字を学ぶ】
 自分の住む村(白鳥庄、野上下郷、瀧上)から始まって近郊の村々の名前を覚えます。 文末に「辛酉(文久元年)元旦」の記載があります。

  大日本国尽





【漢字を学ぶ】
 作者不明。慶長二年(一五九七)初刊。日本諸国の名称を教える目的で作られたもので、 六十八か国と二島(壱岐・対馬)を畿内七道に分けて列記されています。
 文末には「文久三癸亥年正月上浣」の年号が書かれています。

  消息往来





【用語を学ぶ】
 手紙の慣例語句を集めたものです。江戸中期の寛政五年に高井蘭山の書いた「消息往来」により普及したものです。 年号の記載はありません。

  商売往来





【用語を学ぶ】
 商業に必要な語彙やそれに関する知識、そして商人の心がまえを説いた、 おもに商人に対して作られています。 堀流水軒が元禄七年に上梓されたものが最古とされています。
 表紙は「商売往来並国尽」で前と同じ「大日本国尽」が追加されていますので、 一緒に学んだのかもしれません。
 裏表紙の内側には「武州秩父郡野上下郷 名主 平内」と書かれた反古紙が使われて います。名主からもらった紙なのでしょう。

  御手本


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【文章を学ぶ】
 親の恩を説いた道徳書です。かな交じりの平易な文で書かれています。表紙に「文久三年」と書かれているのは実際に 学んだ時期と思われます。

 御手本
子病を生る時は父母これをかなしむ故に己が身を正するときはおや是をよろこぶ
親に金銀衣食をあたへんと思ふも是親の心を快からしめんが為也
ゆへに孝行の大意はたゞ親のこゝろをよろこはしめて父はゝの歎きなからん事を欲すへし
此故に先己か身をもつてなす事を先とし次に金銀いしよくは得るに随而あたゆべし
  癸亥青陽下浣

  都路往来





【文章を学ぶ】
 「都路は五十余りにみつ(三)の宿、時得て咲や江戸の花」の五七五ではじまり、 東海道五十三の宿場の名前をいれて七五調で尻取りのように続きます。 年号の記載はありません。

 都路往来
都路は五十餘りにみつの宿 時得て咲や江戸のはな 浪静なる品川や
頓てこえくる河崎の 軒端ならふる神奈川は はや程ケ谷のほともなく
くれて戸塚に宿るらん 紫匂ふ藤沢の 野も瀬につゝく平塚も
元の哀は大磯か 蛙なくなる小田原は 箱根を越て伊豆の海
三嶋の里の神垣や やとは沼津の菰くさ さらても原のつゆ拂ふ
富士の根ちかき吉原と 倶に語らん蒲原や 休らふ由井の宿なるを
思ひ興津に焼しほの 後は江尻の朝朗(以下続く)
 

  風月往来





【用文を学ぶ】
 作者及び出版年不明。本文は古往来の「十二月往来」を模範型として一月から十二月までの各月ごとに 行事や風雅な季節の移り変わりを趣深く表現された文章が文例として編集されています。
 文字が拙いので本人が書いたものかと思われます。

  証札手本





【用文を学ぶ】
 証文や通行手形の実用文例集です。文字、言葉の習得段階を終えて社会人としての実践教養書です。
 「金子借用手形之事」「畑質物手形之事」「差上申通手形之事」の例文が書かれています。例文の年号に 「文久四甲子年」と書かれているのが実際に習った年号でしょう。また住所として「白須甲斐守知行所 武州 秩父郡野上下郷」と書かれているのも実際の住所と思われます。

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