原文
解読文
被 仰出之趣
上古以来我国ニ而金銀を生し候事、其数無数、
天下之財用とぼしく候得し事共、世の人伝承たる
所ニ而候、然るに
東照宮御治世の始メ、慶長七年ニ及びて天運の
時至り候故歟、神徳感じいだされ候故歟、天下之
宝山一時に開ケ始り金銀之生じ出し事、我
国之始より此かたいまだ其例を聞かず、これより
して公我貴賎の財用ゆたかに事足り候のミに
読み方について
上古以来、我国にて金銀を生じ候事、其の数無数、天下の財用とぼしく候得し事共、
世の人伝え承りたる所にて候。
然るに東照宮御治世の始め、慶長七年に及びて天運の時至り候故か、
神徳感じいだされ候故か、天下の宝山一時に開け始めて金銀の生じ出し事、
我国の始めより此の方、いまだ其例を聞かず。
これよりて公私貴賎の財用ゆたかに事足り候のみに
原文
解読文
あらず、我国の外よりも金銀を求むへきために、
渡り来候国之其数多く、これによりて又我国之
資用もゆたかに事足り候而、今日に至り候、皆是
東照宮之神恩にあらずとハ申へからす、寛永年中、
我国に渡り来候事を禁せられ候国々多しといへ共、
今に至て年々ニ渡り来り候所も、其数猶すくな
からす候ヲ以、我国の金銀、万国之宝ニすぐれ候
事、世の人又推シ知るへき所ニ而候、然ルに又慶長ゟ
以来、或ハ異国之中に流入、或火災之度ニ焼失、
読み方について
あらず。
我国の外よりも金銀を求むべきために渡り来り候国の其の数多く、
これによりて我国の資用もゆたかに事足り候にて、今日に至り候。
皆是東照宮の神恩にあらずとは申すべからず、
寛永年中、我国に渡り来り候事を禁ぜられ候国の多しといえ共、
今に至りて、年々に渡り来り候所も其の数、猶すくなからず候を以って、
我国の金銀万国の宝にすぐれ候事、世の人、又推し知るべき所にて候。
然るに慶長以来、或は異国の中に流入、或は火災の度に焼失、
原文
解読文
或は神社・仏閣・衣服・器財之ために費し
用ひし所、凡九拾余年之間、我国之金銀大半を
減し候故ニ、天下の財用相通し候事、其始ニ
及ひ難く、これによりて元禄年中、金銀の法を
改メ造られ、我国通用之金銀又其数を倍し候、
然れともその金銀の品ハ
東照宮の定メ置れし所には、大きにおよばす候に
よりて、工商之類あらたに造り出され候金銀の価ヲ
賎しミ、各其利を失ふへからさる事を謀り、
読み方について
或は神社・仏閣・衣服・器財のために費し用いし所、凡そ九拾余年の間、
我国の金銀大半を減し候故に、天下の財用相通し候事、其の始に及び難く、
これによりて元禄年中、金銀の法を改め造られ、我国通用の金銀、
又其の数を倍し候、然れども、その金銀の品は東照宮の定め置れし所には、
大きにおよばず候によりて、工商の類あらたに造り出され候金銀の価を賎しみ、
各々其の利を失うべからざる事を謀り、
原文
解読文
諸物の価を増シ加へて、商売し候に及ひて、諸物之
価ハ年々に貴ク、金銀の価は年々に賎くなり来りて、
つゐにハ公我貴賎之難儀にハ至りぬ、異朝にしてハ
古より其宝貨も品高下同しからさる事共にて、
就中、中古以来ハ宝鈔とて紙ヲ以金銀にかへ候而、
天下に通用せしめ候事、今に至るのよし相聞候、
元禄以来之金銀、たとひ其品は下り候共、異朝之
宝鈔ニハくらぶへからす、然は、我国之四民各其
家業を相伝て其財用を相通し候事、
読み方について
諸物の価を増しかえて商売し候に及びて、
諸物の価は年々に貴く、金銀の価は年々に賎くなり来りて、
ついには公私貴賎の難儀にハ至りぬ。
異朝にしては、古より其の宝貨も品高下同じからざる事共にて、
就中、中古以来は宝鈔とて、紙を以って金銀にかえ候にて天下に通用せしめ候事、
今に至るのよし相聞け候。元禄以来の金銀、たとい其の品は下り候共、
異朝の宝鈔にはくらぶべからず。
然らば我国の四民各其家業を相伝えて、其の財用を相通し候事、
原文
解読文
東照宮より以来代々の国恩により候所を存し
候ハんニハ、金銀の価もさのミハ賎します、諸物の価も
さのミハ貴といはすして、今日之難儀にも及はしむ
へからす、然共、財を重し利ヲ争ひ候事ハ、工商之
類の習ひに候上ハ、あなかちに咎むへからす、只偏ニ
其余り公我貴賎之煩となり候事、今更是
非を論するに及ふへからす、すへて此等之事共
年久しく知召され候御事に候を以て、御 代々
始より常に御心に懸られ候所ハ、金銀之品
読み方について
東照宮より以来、代々の国恩により候所を存し候はんには、
金銀の価もさのみは、賎しまず、諸物の価、さのみは、貴といと、
いわずして、今日の難儀にも、及ばしむべからず。
然れ共、財を重くし、利を争い候事は、工商の類の習いに候上は、
あながちに、咎むべからず。只偏えに其の余り、公私貴賎の煩となり候事、
今更是非を論ずるに及ぶべからず。
すべて此れ等の事共、年久しく知らせ召され候御事に候を以って、
御代々始めより、常に御心に置かれ候所は、金銀の品
原文
解読文
もとのことくに、諸物之価も平かに、いかにして天下之
煩を除かるへき御本意に候得共、凡ソ物一たひや
ふれ候後、もとのことくになし返シ難き事ハ定レる
ことハりにて、中にも今日金銀の品をもとのことくに
なし返され候事、尤以難き事ハ、若シ然るへき
いわれもなく今之金銀を以、もとのことくになし返
され候ハんニハ、天下ニ通用し来り候金銀ハ、俄に其
数之半を減し、天下の人各其家財之半
失ひ、又工商之類利を謀り候心は、もとのこ
読み方について
もとののごとくに、諸物の価も平らかに、いかにして天下の煩いを除かるべき御本意に候得共、
凡そ物一たび、やぶれ候後、もとのごとくになし返し難き事は、定まれ得ることわりにて、
中にも今日、金銀の品をもとのごとくに、なし返され候事、尤も以って、難き事は若し、
然るべきいわれもなく、今の金銀を以って、もとのごとくに、なし返され候はんには、
天下に通用し来り候金銀は、俄かに其の数の半ばを減し、天下の人各々其の家財の半ば失い、
又工商之類の利を謀り候心は、もとのご
原文
解読文
とくに候ハ丶、諸物の価ハ、其半を減して商売し
候事も有へからす、然は金銀の数は今迄之
半を減して、諸物のあたへ貴ク候事ハ、今迄之
ことく候ハんには、公我貴賎之難義、只今よりハ猶甚き
に至り候へき歟、此等之義ニよりて卒爾之御沙
汰ニも及ひかたきうちに、新金之事、或ハ火に
あい候てハ流れ失せ、或は物にふれ候而ハ打損し
其宝を失ひ候事有之由聞召及はれ、止ム事
を得られず先其品をもとのことくに改め造る
読み方について
とくには諸物は其の半ばを減じて、商売し候事も有るべからず、
然らば、金銀の数は今迄の半ばを減じて、諸物のあたえ貴く候事は、今迄のごとく候わん。
少しは公私貴賎の難義、只今よりは猶、共に至り候べきか、此等の義によりて卒示の御沙汰にも、
及びがたきうちに、新金の事、或いは火にあい候てハ流れ失せ、
或は物にふれ候ては打損し其の宝を失ひ候事これ有る由、聞こえ召し及ばれ、止む事
を得られず。先ず其の品をもとのごとくに、改め送る
原文
解読文
へきよし被 仰出候、其形の少しく候事ハ不
可然候得共、金銀之法もとのことくになし返され候迄ハ、
天下に通用し候金銀の数、其半を減すへき
事、尤以、不可然事ニ有之候故に候得キ、然るに
又新銀之法次第に其品下り候而、去年之冬ニ
至て銀ニ而通用し候国々貴賤之難義ニ及ひ
候由聞召され、殊ニ不可然事ニ被思召候を以て新
銀を造出し事をハ停止せられ候、此上は猶更ニ
金銀之品もとのことくになし返さるへき事日々ニ
読み方について
べきよし、仰せ出だされ候。
其の形の少しく候事は、然る得べかざれ共、金銀の法もとのごとくに、
なし返され迄は天下に通用し候、金銀の数、其の半ばを減すべき事、
尤もに候、然るべからざる事に、これ有り候故に候得。然るに又、
新銀の法、次第に其の品下り候にて、去年の冬に至って銀の通用し候国々、
其の銭の難義に及び候由、聞こえ召され、殊に然るべからざる事、
思し召され候を以て、新銀を造出し事をば、停止せられ候。
此上は猶更金銀の品、もとのごとくになし返さるべき事、日々に
原文
解読文
御心ヲ尽され候、但天下の宝ハ天下と共に宝と
すへき物に候上ハ 思召に任て御決定被遊難キ
御事ニ候、たとひ今日金銀之品をもとのことくに
なし返され、其数之半を減シ候共、慶長以前之
代々にくらへ候ハ丶、天下之財用猶ゆたかなるへき事
万々倍し候得し、然上ハ天下の貴賎相共に存
候所我国之金銀ハ万国にすくれ候而、万代々之後
迄之宝とすへき物に候へハ、縦各其財宝之
半を失ひ候共、其品をもとのことくになし返さる
読み方について
御心を尽され候、但し天下の宝は天下と共に宝とすべき物に候上は、
思召しに任せて、御決定遊ばされ難き候事に候。
たとい今日金銀の品をもとのごとくに、なし返され、其数の半ばを減じ候共、
慶長以前の代々にくらべば、天下の財用、猶ゆたかなるべき事万々倍し候得し、
然る上は、天下の貴賎相共に存じ候所、我国の金銀は万国にすぐれ候にて、
万代々の後迄之宝とすへき物に候えば、たとい各々其の財宝の半ばを失い候共、
其の品をもとのごとくになし返さる
原文
解読文
へき候事に存し、工商之類相共に存候所
金銀の品もとのことくになし返され候ハ丶、たとひ
其利を失ひ候共、諸物之価ハ其半を減して
商売仕へき事ニ候と存候ハ丶、年来之御本意
のことくすミやかに金銀の品、もとのことくになし返
され、天下之煩を除れ候へし、若天下之貴賎之
存する所も今日通用之金銀其数之半を
減せられん事も不可然候事と存、工商之類も
其利を失ひ候ハん事ハかなふへからすと存候に
読み方について
べき候事に存じ、工商の類相共に存じ候所、金銀の品もとのごとくになし返され候はば、
たとい其の利を失い候共、諸物の価は其の半ばを減じて商売仕るべき事に候と存ぜば、
年来の御本意のごとく、すみやかに金銀の品、もとのごとくになし返され、
天下の煩いを除れ候べし。
若し、天下の貴賎の存ずる所も今日通用の金銀、其の数の半ばを減ぜられん事も、
然るべからず候事と存じ、工商の類も其の利を失ひ候はん事は、
かなふべからずと存じ候に
原文
解読文
おゐてハ天下の人々共ニ其時を
御待合せ可有之候、只いづれの道にも金銀之
事ハ我国万代迄之ために
東照宮定め置れし法のことくになし返さる
べき御本意ニ候間、天下之貴賎よろしく此の旨を
存すべき由、被 仰出者也
辰十月十一日
読み方について
おいては天下の人と共に、其の時を御待合せこれ有るべく候。
只いづれの道にも金銀の事は、我国万代迄のために、東照宮定め置れし法のごとくに、
なし返さるべき御本意候間、天下の貴賎、よろしく此の旨を存ずべき由、仰せ出だされる者也
辰十月十一日
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